線路の楽しさ

      

二万平駅と塔山の尾根

神木駅から2.6km、標高差150mを下った次の停車場が二万平です。ここは建設時の終点で、広い平地があることから「二万坪」という名が付けられていました。 「坪」は日本語では面積の単位ですが、中国語では「平らな土地」という意味で「平」と発音も意味も同じなので、現在では「平」と表記されることが多いようです。

 右の図は、戦前につくられた阿里山周辺の「道路計画図」に駅名を記入したもので、赤で示された道路は実際にこの通りに存在しているわけではありません。 左下で大きくΩの形に弧を描いて向きを変えるところが二万平。直線部分が駅で、カーブの内側には多くの建物があり 図の左(西)側は谷底へ続く急な崖になっていました。『阿里山森林鉄道1966-1968』制作中は、側線や分岐の正確な位置や形状が分からなかったため 二万平の構内図を掲載しませんでしたが、その後に資料が手に入りました。

 右は、阿里山で生まれ育った陳月霞さんが一家の歴史をつづった『阿里山倶楽部』という本に掲載されている図や、多数の写真をもとにして 描き起こしたものです。
 『阿里山森林鉄道1966-1968』20p上の写真は図の矢印a方向の撮影で、初版のキャプション「阿里山方から見た」は「嘉儀方から見た」の間違い。 21p写真は給水柱の付近からいちばん左(谷側)の線に停車中の列車を見たところ。75p下写真は図のbの矢印方向を向いて撮影したものです。
 阿里山(沼平)が終点になるまで、この二万平には機関庫が置かれ、林業や鉄道関係者が多数住んでいるにぎやかな場所でした。

 阿里山方から見た二万平駅と谷を隔てて聳える塔山の尾根 デルタ線の内部には噴水と池がある 1966年 撮影=夢遊仙人

上の写真では背後に切り立った山塊が見えていますが、これは阿里山からも見える塔山の尾根で、右上の特徴あるギザギザした岩が 大塔山のピーク直下にあるものです。実は、前回取り上げた神木駅から眺めた塔山尾根の写真にもこの岩は写っており、『阿里山森林鉄道1966-1968』46‐47pの写真で 背景に見える岩も、これと同じです。
 つまり大塔山の威容は、塔山線からも、阿里山駅(現・沼平)からも、神木駅からも、二万平駅からも見ることができたのです。樹木が生い茂る前は第一分道からも よく見えていたようです。
 現時点では、災害のため二万平を通る列車は運行されていません。復旧工事が完了し十字路~神木間の運行が再開されれば、二万平から屏遮那へ下る車窓から、この塔山大尾根の素晴らしい景観を よく見ることができるはずです。

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