四季おりおりの姿
馬と混合列車(簡易軌道)
2014年第10回軽便鉄道模型祭のポスターは、北海道の簡易軌道の写真を使っています。ちょうどその頃、イベントの中心人物であるHさんが
簡易軌道のレイアウトを作っていたこともあり、デザイン担当のKさんが選んだ2点のうち1つが右。混合列車と
道産馬(どさんこ)の出会い。
この写真は過去に『軽便鉄道』(松本典久著 1982年 保育社カラーブックス)に掲載されたことがあります。
馬と機関車という2つの重要な輸送手段が並んでおり、ソリで牛乳を運んでいるところなど生活感が感じられる
Kさん好みのシーンだとのこと。
ここは、札幌から300キロ以上北にある宗谷本線の駅から十数キロ延びていた問寒別線(幌延町営軌道)の停車場で、牧場から馬ソリで運ばれてきた牛乳缶を
貨車に積み替えているところです。廃止直前、1971年春の様子ですが、この頃は北海道各地で馬がソリや荷馬車を引く姿を見ることができました。
当時は道内の道路で舗装されているところは少なく、雪解けの時期にはクルマが走れないため道産馬が輸送に使われていたのです。、
前年夏の『鉄道ファン』誌に掲載された けむりプロの「ミルクを飲みに来ませんか」という作品は道東の3路線を素材にしたものでしたが、それを見て強く心を動かされた撮影者は、廃止される前に 簡易軌道の情景を記録したいと考え、残っているはずの4か所すべてを訪ねる計画を立てました。ここ問寒別線はその1年前の『鉄道模型趣味』に記事が出たことがあり、車両やストラクチャー、混合列車が走っていることなどは分かっていましたが、雪の季節にどんな光景が 展開されるのか、まったく未知の世界への旅でした。列車は午前と午後に1往復ずつ。軌道以外にバスなどの交通手段はありません。
朝の1番列車で終点まで行き、戻る列車が中間地点あたり、おそらく8線の停車場で貨車に牛乳缶を積む様子を撮ったのが 左の写真。あわてていて、列車から降りて撮影位置を決めるまでの間、よく周囲を見ていませんでした。 シャッターを切った後で、右にソリを牽く馬がいることに気づいたのです。
背の低くがっしりした道産馬! これを撮らないでどうする! という光景です。急いで馬と列車が収まる位置まで下がり、1枚だけ撮って雪に埋もれたホームに駆け戻りました。
その後に撮ったのは、バイクで牛乳缶を運んできたらしき青年と、馬と犬(も居たんです)が中途半端に写っている失敗作の2枚だけ。
本当は、馬をもっと撮りたかったのですが、もし離れたところに移動して列車に乗り損ねたりしたら、雪原の真ん中で夕方まで帰る手段がありません。列車が出てしまうのではないかと
気が気ではなく、かろうじて残せた瞬間です。
往路の車窓からは他の停車場でも馬が見えたのですが、復路では置いてある牛乳缶を積み込むだけで、ここ以外では馬には出会えませんでした。
その後に訪問した道東の路線でも、牛乳缶は人間が運んだり、自家用車で停車場に持ってきたりしており、結局この旅で撮れた「馬と軌道の出会い」は
この1枚。後から考えれば、運転手さんに「写真を撮り終えるまで待ってくれ」と頼めばよかったのですが、そんなことを思いつく間もなく
シャッターを切って客車に戻るので精一杯。なので、写真の出来はいまいちで、ポスターのように縦位置にして空を入れた方が、ずっと雰囲気がありますね。
撮影者によるこの日の記録を別のサイトで公開していますので、興味をお持ちの方は
ぜひご覧ください。