四季おりおりの姿

      

雪晴れの金平

南軽出版局は、2011年の発足以来、軽便鉄道や小鉄道の魅力を伝えるための活動を続けてきました。営利事業ではなく、通常の流通ルートに乗らない出版形態であるため 販売数は決して多くありませんが、読者の皆様のご支援により活動を継続することができ、昨年も「羅須地人鉄道協会」の蒸気機関車復活プロジェクトへの まとまった寄付を行うことができました。本年も、引き続き「なんかる」でなければ出来ない作品を世に出すべく、鋭意努力を続ける所存です。

雪晴れの金平駅。積雪のため列車がここで折返しとなり、職員をデッキに乗せたまま機回し中のDC121 1971年 撮影=かねた一郎

新刊『軽便鉄道 雪景色』は、雪の季節の軽便鉄道で出会った素晴らしいシーンから厳選した写真120点余りを掲載していますが、まだ多数の良い写真が残っているので、今年初めも しばらくそれらの紹介を続けましょう。

上の写真は『雪景色』56-57ページの写真と同じときに撮影されたものですが、背景の山の様子を見てください。 前日の夜まで降り続いた雪が、樹々のてっぺんや上を向いた葉だけでなく、ほぼ全体にくまなくはりついています。北陸の湿った重い雪質のことは『雪景色』でも 解説をしていますが、雪晴れの朝になると、このように見事に冠雪した樹林が見られることがありました。金平の駅は、周囲に人家が無く田圃が広がっているので、 平らで滑らかな雪野原とその背景を為す山の微妙な陰影との対比が特に目立ちます。
 尾小屋の冬は、雪雲に覆われた曇りの日も多く、樹々に着雪した雪も次第に落ちてしまうので、いつでもこの写真のような状態になるわけではありません。 『雪景色』の前見返し写真のように、雪の白と樹々の幹や枝の黒がコントラストをなす、墨絵のような色合いになることが多いのです。 また、晴れて気温が上がれば、雪はどんどん融けて落ちていきます。
 つまり、このように見事に雪景色が見られるのは、前日まで激しく雪が降り、かつ良く晴れた早朝に限られるようなのです。右下の写真は、数時間後に 同じ金平で撮影されたものですが、一番上の写真と比べてみると、背後の山の雪が既に融け始め、黒の割合が増していることが分かります。 雪国の景観も、天候によって刻一刻変化しているので、これらの美しい瞬間に出会えたのはたいへん幸運だったと言えそうです。

上)上写真と同じときに反対側から撮影したもの 撮影=雲邊幹人
下)電柱にも着雪している 停車しているのはキハ1 撮影=かねた一郎

こうしたことは、撮影に赴いたとき現場で気づいていたわけではありません。そのときは、列車が途中で折り返しになっても、運休が続いても、 かまわず行けるところまで行き、良いと思う瞬間にシャッターを押していただけ。異なる条件下で撮影された多数の画像を デジタルデータにして眺めることができるようになって初めて気づいたことも多い。ですから、新刊『軽便鉄道 雪景色』に収められているのは、50年前の記録の中から新しい技術の助けを借り 現在の眼で選び直した「後世に残したい」シーンの数々なのです。

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