車輌のおもしろさ

      

瑞三の1067mmガニ股機関車その2

今回とりあげるのは、増補改訂版『基隆&瑞三炭鉱鉄道』で初めて紹介した、もう1輌の1067mm軌間の蒸気機関車です。

この機関車は、けむりプロの最初の訪問時には右写真のように屋根の下に置かれており、左の雨宮改造らしき機関車と 同型だと思われていました。同じようにガニ股で格好良くない上に、予備機のようだったので、誰も写真を詳細に見ることがないまま 50年が過ぎていったのです。
 ところが昨年、増補改訂版作成のため詳細に写真をチェックしていると、この機関車にはスチームドームが無く、筒状のものが ボイラー上に乗っていること、シリンダーブロックの形状や動輪、ブレーキシューの位置などが、もう1輌とは違っている事実が判明。 この2輌がどういう経歴を持つのであれ、原設計は同じメーカーのものとは考えられないことがハッキリしてきました。

上)当時はあまり関心が無くライトとキャブ窓以外同じと思っていたが… 1966年3月 撮影=夢遊仙人
下左)ボイラー上に蒸気ドームがない 下右)シリンダー上面が斜め 1966年3月 撮影=杉行夫

我国で使われた軽便サイズの蒸気機関車でスチームドームが無いものは、仙北軽便鉄道が輸入し、後に普通の形態に改造されて 沖縄軽便鉄道に移った英Avonside製Cタンク(軌間762mm)しか、私たちは知りませんでした。また、シリンダー上面が 斜めになっているところは、一部の輸入小型機に見られる特徴です。いったいこれは何者なのか?
 編集作業を進めている間に、台湾から洪致文さんが訪ねて来ました。彼の調査によると、この機関車は雨宮製ではなく 原型は戦時中に日本車輌が海軍に納入した機関車の1輌で、その証拠となる図面の存在も教えて頂きました。 たしかに、日車が台湾向けに製造した機関車の中に、スチームドームがなく動輪やシリンダー形状が一致する軌間610mmのものがあったのです。 しかも瑞三のこの予備機は解体されず、現在は台中民俗公園に保存されているというのですから、驚きました。

左)翌年には予備機が動いていた。ボイラー上の安全弁が吹いている 1967年3月
右)後姿はもう1両と同じ。窓下の薬缶に注目! 1966年3月 2枚とも撮影=杉行夫

洪さんのブログで 保存機の現状と、日車「海外向け図面集」に掲載された図を見ることができます。 彼の見解と私たちの判断が完全に一致しているわけではありませんが、この機関車の原型が日車のデザインであることは 間違いないでしょう。増補改訂版『基隆&瑞三炭鉱鉄道』には、洪さんが引用した図面をもとに描いた 製造時の姿と思われるイラストを掲載しています。

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