人間と鉄道

      

ダージリンの市場線

ダージリンの市場線

終着駅ダージリンから、さらに500mほど貨物専用の支線があります。道路沿いに「チョーク・バザール」という地点まで延びていたので、けむりプロは「市場線」と名付けていました。 『ダージリン・ヒマラヤン鉄道&マテラン登山鉄道』で 45p右下の1枚、83pの4枚がその市場線で撮影されたものですが、たいへん珍しい写真です。
 どのくらい珍しいかというと、ダージリン・ヒマラヤン鉄道のファンが多く、書籍も多数出されている英国の愛好家団体から けむりプロに対して「写真を貸してほしい」という依頼が届くほどなので、この支線の現役時代の様子の記録は非常に少ないのだと思われます。

市場線の終点にある倉庫。上は終端側から、下はダージリン駅側から。1969年。撮影=杉行夫

右の写真が、その市場線の終点にあった倉庫で、『ダージリン・ヒマラヤン鉄道&マテラン登山鉄道』45p下の写真より少し左に寄った位置から撮影されたもの。 枕木を置いた車止めが見えていますが、実は貨車の停まっているあたりから左に分岐して道路を渡っている引込線があるので、もしかすると そちらの方が若干長い「真の終端」かもしれません。
 倉庫の全景を上から見たところが、『ダージリン・ヒマラヤン鉄道&マテラン登山鉄道』83p上の写真。2階建てのかなり大きな倉庫で、 麓から運んできた貨物をここに貯蔵したり、仕分けをしていたのでしょう。
 反対側から見たのが、右の2枚目。焚火に当たっている人たちが居ますが、どうみても火を燃やしているのは線路の上ですね。
 この写真では分かりにくいのですが、貨車の停まっている付近からこちら側(ダージリン駅側)にも分岐して道路を渡る線路があり、 ここから左手を眺めると、道路の両側に線路がある実に珍しい光景を見ることができます。

この鉄道の大半は、「ヒル・カート・ロード」と呼ばれる街道と並走しているので、併用軌道になっている部分や、店の軒先をかすめて走る箇所は あちこちにあるのですが、ここの線路の様子はとりわけ模型的です。ループやスイッチバックを駆使した山岳鉄道の終点、海抜2000mの地に、こんな場所があるというのも なにか奇跡的な感じがします。

市場線3
ダージリン駅へ向かう線路はカーブしている箇所で道路の反対側に渡る。1969年。撮影=杉行夫

 右の写真が、2枚目の撮影地店から左を向いて少し進んだ地点での撮影です。 『ダージリン・ヒマラヤン鉄道&マテラン登山鉄道』83p左下の2枚は、少し下がった位置と俯瞰でとらえたもの。 左下隅に見えているのが、倉庫のところで分岐して戻ってくる引込線で、トラックのあたりが終端。ここでも焚火の煙が上がっています。
 右の建物の玄関先をかすめた線路は、絶妙なSカーブを描いて所で道の反対側に移っています。

 市場線がいつまで使われていたのかは定かでありません。線路の一部は現在も残っているようですが、この鉄道の貨物輸送は1993年に 廃止されており、いまでは道路を走るトラックが物資の輸送を担っています。

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