人間と鉄道
基隆炭鉱鉄道と人車軌道
五堵の基隆煤鉱の軌道は、2か所で人車(手押し)軌道と立体交差しながら坑口へ向かうというおもしろいものでした。雨の多い台湾では、舗装していない道路はすぐぬかるんでしまうせいか 戦前から多くの人車軌道がつくられ、人が手で押して荷物や乗客を運んでいました。 ユニークなのは、内地の人車軌道と違い屋根もない小さな台車を使っていた点です。
この五堵の駅から鹿寮2坑へ向かう友納人車軌道は、元々は石炭輸送のために つくられたようですが、けむりプロの訪問時には石炭を運ぶ姿はめったに見られず、主に乗客2人を乗せた台車を1人の押し手が担当していました。路線図と、基隆煤鉱の専用線との位置関係は 増補改訂版『基隆&瑞三炭鉱鉄道』8-9ページの地図をご覧ください。
上の写真が、坑車総站の近くでマッカーサーハイウェイと基隆煤鉱の線路をくぐるところ。彼方に五堵へ向かう人車が見えています。
山へ向かう台車は右の線路を手前側に進み、丘陵地帯を抜け友納分站へ向かいます。
右は中間駅・友納分站の少し先で再び人車軌道が下をくぐる箇所。増補改訂版『基隆&瑞三炭鉱鉄道』36ページ下の写真とは反対側から撮影された
ものです。この友納分站付近では、両者の線路が接近したり離れたり並走したりする姿が見られました。停車場付近の線路図は同書33ページにあり、最も面白いシーンは36-39ページに掲載されていますので
興味をお持ちの方は是非そちらをご覧ください。
人車軌道は、1台ずつの台車が続行することも多くダイヤはないので停車場を設けて交換するのが難しい。古い動画を見ると、単線区間で台車同士が出会った場合は 坂を下る方が優先で、登る方は線路から台車を外して下りを通過させています。対向車が多いと、たびたび台車を線路外に出さねばならず不便だったでしょう。 そのため、線路幅がとれる友納分站より下流は複線になっていました。
何度も基隆煤鉱を訪れたけむりプロのメンバーにしても、蒸気機関車の走る姿を中心に追っていたので、
この人車軌道だけの写真はあまり撮っておらず、とくに友納分站から奥の単線区間の写真がありません。
人車軌道が、一日に何本くらい走り、乗車賃がいくらで、乗りたい人は何処で誰に頼んだのか?
押している人たちが誰とどういう契約で働いていたのか? そうした基本的な情報がまったく分かっていません。右の写真は、
たいへん珍しい記録と思われる、台車をしまっておく車庫の様子です。