線路の楽しさ

      

作業線ダブルΩとの出会い

左下隅に見える岩が「水を飲んでいる竜」の鼻先 2枚とも1973年8月 撮影=かねた一郎

鯎川の急峻な谷を遡上していくと、坊主岩から4kmほどのところで助六の広い谷に出ます。その谷の向こう側の斜面に敷かれていたのが東川の作業軌道でした。 南軽出版局の最新刊『助六』14-15ページでは作業線を最初に見た時の驚きを語っていますが、実はそこに使われている写真は最初に見た時のものではありません。 訪問時に列車内から撮影した1枚目は右上の写真で、揺れる車内で慌ててシャッターを切ったのでブレており、軌道の様子もよく見えません。
 その次に撮ったのが、右中のカットです。この場所で線路は鯎川沿いの崖に出て、ダブルΩのある斜面との距離が近づきますが、まだ作業軌道の様子は鮮明には見えていません。 かといって、Ωの斜面全体も画面に収めることができないのです。
 この場所の全体像を伝え、なおかつその魅力を表現するのが難しい理由は、このスケールの大きさにありました。全景をフィルムに収めようとすると「桟道」の構造はよく見え なくなってしまうのです。

 「けむりプロ」の杉行夫は、この課題に対処するために解像度の高い大判のフィルムを使い、対岸の山の上に登って 複数のカットを記録することを考え、2年後に助六に入った際にそれを実行しました。下の写真がその1枚です。 ただ、当時はプリントの大きさをそろえて巧く合成することが難しかったので、このアイデアを整った印刷物にすることができませんでした。 現在ではデジタルデータをディスプレイ上で確認しながら作業できるようになり、杉の構想と努力が40年以上経ってきちんとした形で 公開できるようになったわけです。その成果は『助六』40-41ページの折込でご覧いただけます。
 なお、下の写真A地点付近で矢印の方向を向いて撮ったのが、右上の写真と『助六』14-15ページの写真、B地点で矢印の方向を向いて撮ったのが右中の写真です。

鯎川本流は大きく蛇行しながら右から左へ流れている。B地点の矢印の先に見えている岩と淵が「竜の水飲み場」 1975年10月 撮影=杉行夫

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