線路の楽しさ   

  

  併用軌道の駅(花巻電鉄)  

上松のΩ
店の軒先にはキッコーマン醤油の看板、屋根の上の看板には「トリス」「ニッカ」「ウヰスキー」「洋酒」などの字がみえる。1960年秋 撮影=柳一世

 軽便鉄道のおもしろさの一つとして欠かせないのが併用軌道でしょう。「へいようきどう」というのは道路の上に線路が敷かれているもので、その昔各地に続々と軽便鉄道が建設された時代には路線の大半が路上を進むものもあったようですが、昭和30年代になるとある程度の長さの併用軌道が見られるのは沼尻鉄道と花巻電鉄軌道線だけになっていました。
 電化された鉄道は「味噌汁軽便」のカテゴリーには入らないと感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、花巻電鉄はいかにも東北の田舎といった風景の中を走ることもあって、かなり「味噌汁度」が高いように思えます。

上松のΩ

 舗装されていない田舎道の細い線路。枕木は土に埋もれ、砕石もあまり入っていない軌道。ここは駅ですよという目印は何も見当たりませんが、これでも立派な駅です。
 ポールで集電する細身の電車が、向こうから来る少し巾の広い電車と交換するために停まっています。酒屋の軒下に佇んでいる女の子たちは、もうすぐ到着する反対方向の電車を待っているのでしょう。

 上の写真の電車は、その細い車体のせいで「馬づら電車」と呼ばれていました。花巻の町と鉛温泉を結ぶこの軌道線は、一部の区間で線路が民家の間の狭い道路上に敷かれていたために、普通の車両よりもかなり車体巾を細くしなければならなかったのです。
 巾は細くても、車輪と台車の高さがあるので床はあまり低くできません。ホームの無い併用軌道の駅では地面と床との高低差が大きく、たとえホームがあっても軽便の場合はたいした高さがないので、電車や客車の扉のステップは乗降の便を考えて床より相当低い位置につくってあります。
 それでも左の写真で学生が跳び乗っているらしき様子を見ると、老人や子どもにとっては道路上からいきなり乗り込むには、ちょっと高さがありすぎたのかもしれません。写真で、路上に妙な箱のようなものが見えていますね。この台が、この駅のホーム(笑)です。

1960年夏 撮影=柳一世

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