四季おりおりの姿

      

雪国の暮らし(角巻の事など)

南軽出版局の新刊『軽便鉄道雪景色』の表紙は、鉄道を扱った写真集としては異色のものだと思います。 これまで出版した南軽の書籍では、表紙には車輌が大きく写っている写真を使っていますが、この『雪景色』では駅を出て遠ざかる列車が見えているだけ。 デザイナーの考案した数案のうちから、最も<鉄道書らしくない>けれども、最も<雪国の暮らしを感じさせる>絵柄を選んでいます。
 低いホームを降りて改札のある駅舎へと向かう乗客。3人のうち風呂敷を下げた男性の前を行く2人の女性が羽織っているのは 本文18ページでも説明している角巻(かくまき)。 雪国の女性の防寒具として使われる角巻は、ふつう一辺160cmくらいの方形の毛布のような毛織物で、周囲には房飾りが付いています。 襟の部分に毛皮を付けているものもあります。明治時代に、この四角い布を頭から被ったり肩掛けのようにまとったりすることが雪国の流行となったらしく、「マント」や「膝掛け」などと並んで 俳句の季語にもなっています。関心をお持ちの方は「角巻, 俳句」で検索してみてください。WEB上に多数の作例が見つかります。

 元の画像は縦長ではなく、下のようにカメラを水平に構えて撮影した横位置です。実は、角巻以外にもいろいろなものが写っている興味深い写真で、 『雪景色』をお持ちの方は是非一度、カバーを広げて左右に写っているものも見ていただきたいと思います。 裏表紙の側には、雪に埋もれたホームに立つ腕木信号機と、その後ろに並ぶ稲架木。カバーの折り目を開くと 右には改札係をしている駅の女子職員。4人の動きが、これ以上のタイミングはないと思えるような瞬間です。

 駅員の後方ホーム上には自転車が置かれています。本書には掲載していないものの、同じ冬の頸城鉄道で 駅に停めてあるバイクや自転車が写っている写真が何枚もあるので、この雪の中でも自転車をこいだりバイクに乗って 駅まで来る人が居たのでしょう。 さらに驚いたのは、角巻の女性の背後、貨車の手前の貨物ホーム上、雪の中に放ってあるように見える長方形の大きな3つの箱。1カット前の写真で、 歩いている女性と重なっていないものを拡大してみると、箱には「丸石の自転車」と書かれているではありませんか。つまり、 この雪の中で新品の自転車が貨車に積んで配送されていたのですね。

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