四季おりおりの姿
花巻の除雪電車
1960年代までは雪国の冬には自動車は走れないのが当たり前でした。舗装道路と除雪自動車、融雪溝とスプリンクラーが普及する以前は、人の移動も物流も鉄道が頼りだったのです。それだけに、鉄路を確保する除雪は大事な作業でした。
軽便鉄道で本格的な除雪車を持っていた路線は多くありません。その例は、また後ほど取り上げますが、専用の除雪車を持たず、力のある機関車に排雪用のスノープラウをつけて走らせるか、人力で雪かきをしていた鉄道も多かったようです。
花巻電鉄には、昔は小さな電気機関車がありましたが、除雪用には力不足で役立たなかったでしょう。この鉄道が降雪にどのように対処していたかは、あまり記録が残されていないようですが、写真のように電車にスノープラウを付け、お客を乗せずに「除雪列車」を走らせることもあったようです。
でも、雪が固く凍りついたところでは、ご覧のとおり立ち往生してしまいました。最後は人手に頼るしかありません。
「あれ?花巻のデハにスノープラウなんて付けられるの?」と疑問に思った方もいらっしゃるでしょう。
「馬づら電車」と呼ばれたデハの妻面は、下部に大きな欠き取りがありますが、そこには連結器があるだけで除雪装置を取り付けるための固定器具が見当たりません。
左の写真は、上の写真の停車しているデハ3を反対側から撮影したものですが、連結器の周囲に木の枠が取り付けられています。おそらく、これがプラウを固定するための器具で、除雪列車として走らせるときのためだけに用意されていたのでしょう。除雪作業に出るときには、前後にこの木枠を付けて出動し、行きと帰りでプラウを反対側に付け替えていたものと思われます。
軌道線のデハは人気もあり、模型をお持ちの方、レイアウトを構想中の方も多いかと思います。花巻の併用軌道と街並みをレイアウトで再現するのは少々ハードルが高いかもしれませんが、こういう雪景色なら(雪の素材を大量に用意すれば)地面にかける手間が省けます(笑)。屋根からつららが下がり、雪まみれになったデハが、プラウを付けて雪の中を走る小さなセクションというのも、なかなか楽しいのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。