車両のおもしろさ

      

瑞三礦業の雨宮製機関車

南軽出版局は今秋、品切れとなっていた『基隆炭鉱鉄道1966』の増補改訂版『基隆&瑞三炭鉱鉄道』を発売しました。 増ページの大半を占める24ページと折込では、台湾北部の猴硐(こうどう)にあった瑞三礦業の専用線をとりあげています。

瑞三礦業専用線で動いていた蒸機(左)と雨宮の銘版を付けた廃車体(右)。右写真手前にさらに動輪2個が見える 1966年 撮影=夢遊仙人

瑞三礦業は1990年まで操業していたので多数の画像記録が残されていますが、蒸気機関車が走っていた時代のものは けむりプロのメンバーによって『鉄道ファン』誌1966年11月号に写真6点と地図、『鉄道讃歌』に写真7点が紹介されたのみで、専用線の歴史と 使用された機関車についての調査も進んでいませんでした。 今回、けむりプロの撮影した約500点の写真を詳細に検討し当時の508mmゲージ(20インチ)専用線の全体像を解明しています。 その魅力は合成画像を含む50枚の組写真によって語り尽くされていると思いますので、関心をお持ちの方は是非『基隆&瑞三炭鉱鉄道』をご覧ください。

 昨年来の編集の過程で、この専用線について、かなり詳しいことが判明しました。 右の図は「日本鉱業会誌」606号(昭和10年10月)に掲載されていたもので、戦前の基隆炭鉱(五堵にあった基隆煤鉱とは別)の運炭設備を詳述しています。 凡例にあるように点線は「蓄電池機関車運炭線路」、一点鎖線が「蒸気機関車運炭線路」で、本文には「万里坑と瑞芳3坑が20インチ」「その他は24インチ」と書かれ、 付表には、基隆2坑と瑞芳2坑に各2輌、万里坑に1輌の5.5トン蒸気機関車が存在したことが記載されています。
 この時点で猴硐の瑞芳3坑の坑外線は蓄電池機関車3輌が使われているとされており、同社の他の専用線に508mmゲージの蒸機が1輌、610mmゲージの蒸機が4輌いたことになります。

 基隆炭鉱専用線の軌間についての記述(左)と四脚亭の基隆2坑の機関車についての記述(右)

 ここから先は想像になりますが、廃車体の脇にアウトサイドフレーム用の動輪2個が転がっていたことから考えると、基隆炭鉱所有の610mmゲージの蒸機4輌は508mmに改軌され、 万里坑の機関車と合わせ5輌のうち少なくとも3輌が戦後の猴硐の専用線に移ってきた可能性が高いと思われます。 また、北五堵にあった同型の廃車体と、瑞三礦業が台鉄線との貨車の移動に使用していた機関車の1輌(1067mmに改軌されたと考えられる)を含めると、雨宮製らしい小型機は全部で5輌になります。

 まだ若干の疑問点も残っているものの、これらのことから瑞三の508mm蒸機は、昭和初期に基隆炭鉱KKに雨宮が納入したものと考えて良さそうです。 戦前の基隆炭鉱は三井鉱山も出資する大会社だったので、どこかにより詳しい記録が残っている可能性はあると思います。機関車史に関心のある方には 見逃せない話題の一つではないでしょうか。

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