ストラクチャーの魅力
阿里山の神木
阿里山をとりあげて、これに触れないわけには行かない存在、神木です。この巨木は鉄道が建設される以前から知られていたようで、明治末期に撮影された写真を見ても、すでに根元に柵が作られ保護されています。(『阿里山森林鉄道 1966-1968』2ページ)。いつの時点の測定かハッキリしませんが、樹高52m、幹の周囲19mという記録が残されています。
この木は写真の撮影時には、すでに落雷のために枯れ、内部が空洞になっていました。阿里山のシンボルとも言うべき存在であり、さまざまな伝説も語り継がれていたそうで、切ってしまうのはためらわれたのでしょう。このままの状態で30年後まで残されていたのですが、1997年の夏にとうとう幹の半分ほどが割れて地上に倒れてしまいました。残る半分も線路上に倒壊するなど事故の危険が予想されたため、惜しまれつつも翌98年の6月に林務局の手によって切り倒されました。
幹の一部はこの場所に横たえられて、その由来を伝える看板が立てられています(写真右下)。ところどころ苔の生えた幹には、どこからか植物の種子が飛んできて、芽を出しています。やがて、ヒノキの種子が発芽して根付き、この上に再びヒノキの大木が育っていくことになるのかもしれません。
阿里山一帯では、近年、このクラスの巨樹が何十本も見つかっていて、「◇◇神木」のような呼び名をつけられています。日本統治時代から国有林の伐採が中止されるまでの70年近い歳月の間に、膨大な量のヒノキが伐り出されたはずですが、これらは見つかりにくい、伐りにくい場所にあったから伐採を免れたのでしょうか。それとも、この神木と同様に、あまりに立派であったから残されたのでしょうか。
樹齢数千年の巨樹が生き永らえているさまを目にしたとき、何か「神々しい」ものに出会ったような印象を抱くのは、洋の東西・宗教観の違いを超えて、多くの人間に共通する感情なのではないかという気がします。