ストラクチャーの魅力

    

井笠鉄道 大井村駅のサクラ

 サクラの木が植えてある駅は、軽便鉄道に限らず多くありました。しかし、ホーム上に「並木」と言えるほどたくさんのサクラが植わっていた駅は、栃尾線の悠久山と井笠鉄道の大井村くらいではないかと思います。

 井笠鉄道大井村駅 笠岡側から見たところ 対向式ホームの両方にサクラが植えてある  1971年3月 撮影=高田三郎

 山陽本線の笠岡駅から出た井笠鉄道は、車輌区のある鬮場(くじば)駅の少し先までは街中を走りますが、その次の大井村の周囲には畑や農家しかありません。駅は斜面をならしてつくられたようで、上りホーム側は崖になっており、駅前の道は反対に下り坂。井原方には踏切があり、笠岡方のポイントのあたりは短い切り通しで、変化に富んだ景観を楽しむことができました。
 前回とりあげた木之子と同様に漆喰の白壁のある駅舎が、下りホーム上に立っています。末期には列車交換も朝夕しか行なわれていませんでしたが、1971年の廃止まで複線のまま、下り列車と上り列車は別のホームに停車する運用を続けていました。

 上の写真では、サクラの木はあまり多く見えないかもしれませんが、下と右の2枚を見ると、上りホームには少なくとも5本あり、下りホームの2本と合わせて7本。さらに駅前にも大きな古木がありました。

右)駅舎から上りホームを見る 撮影=高田三郎 1971年3月 
左)上りホームの待合室 撮影=雲邊幹人 1971年3月 

 岡山のサクラの開花日は、例年は3月末なのですが、この鉄道が廃止された1971年は開花が遅れていました。最後の2日間は曇りと雨模様で気温も上がらず、残念ながら3月31日の最終列車まで、膨らんだつぼみが開くことはついにありませんでした。
 満開のサクラの下を列車が行く姿は、保育社カラーブックス『軽便鉄道』の127ページに掲載されている赤木幸茂さんが撮影された写真で見ることができます。また、この駅周辺のスケッチが、今井啓輔さんの『私が見た特殊狭軌鉄道 4巻』に掲載されています。

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