四季おりおりの姿

     

ひろびろたんぼ4(奥山線の夏)

田んぼ
 遠州鉄道奥山線 1961年7月 撮影=柳一世

 遠州鉄道奥山線は、早くに廃止されたこともあって、軽便鉄道ファンの話題にはあまりならないようです。しかし、この鉄道の曳馬野から先の非電化区間には、なかなかに魅力的なシーナリーが点在していました。
 都田口から祝田あたりまで、三方が原の台地を越えて行くところには、急勾配のある築堤や、橋などがあります。国鉄二股線との接続駅である金指の付近から気賀口あたりまでは、平坦な田園地帯。そこから終点奥山までは、再び山あいの村を行くようになります。
 上の写真、一見、どこにでもありそうな夏の風景ですが、こういう何もない広い場所は、今では探すのが難しいでしょう。送電線もコンクリートの電柱も、舗装道路も大きな建物も広告の看板もなく、田んぼとあぜ道、水路が広がっているだけ。色でいうならば、鉄道と電信柱以外は、青と白、緑だけでできているのですが、決して単調ではありません。もくもくと積雲の湧く広い空の下を、小さな気動車が牽くダブルルーフの客車。窓には、まばらな乗客のシルエット。なんだか、ジブリの映画に出てきそうなシーンだと思いませんか。

 ジブリのアニメには、小さな鉄道がよく登場します。そういえば、「となりのトトロ」で、メイが行方不明になって皆で捜索するときに、こんな光景の中を短い電車が走っていくシーンがありましたよね。
 宮崎駿さんが半藤一利さんと対談した最近の本で、「若い世代には、もうトトロの世界を描くのも難しい」ということを語っていました。でも、体験したことのない世界でも、たくさんの映像を見ているうちに、その気配のようなものを掴んでいくことは、不可能ではないような気がします。若いアニメーターのみなさんにも、ぜひ「南軽」の提供する軽便の世界を見ていただけると嬉しいです。
 右の写真は、やはり奥山線の小さな駅。数人の学生やおばさんが降りて、改札に向かうところ。ホームで鞄を持っている男は、これから乗り込むのでしょうか。それとも、車掌に料金を払おうとしているのでしょうか。なんだか物語を感じさせるシーンです。
 古びた駅舎も、気動車に牽かれている古い木造客車も、なんともいえない趣があります。この鉄道の素敵な木造客車群については、改めて特集したいと思いますが、まずは奥山線の「失われた日本の夏」を味わってみてください。

奥山線の夏
 遠州鉄道奥山線 気賀口 1961年7月 撮影=柳一世

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