車輌のおもしろさ

     

 丸妻の電車2(花巻のデハ)


 妻板の丸い電車といえば、こちらも忘れてはいけません。花巻電鉄にも、3枚窓の正面にゆるくカーブが付いているものがあります。

 鉄道線デハ3 このときは集電装置がビューゲルとポールの両方付いている 1960年 撮影=柳一世

 花巻電鉄には、デハ1~4が2種類ありました。巾が細いことで有名なのは、西鉛に行く「軌道線」のデハ1~5。写真のデハ3は、もともと花巻温泉に行く「鉄道線」用につくられたものですが、ときには軌道線にも入っていたようです。そういう事情があるので、軽便鉄道ファンに「花巻のデハ」と言われたら「どっちの?」と確かめておかないと、混乱の元になります。
 形態がユニークで有名なのは、巾の狭い「軌道線のデハ」なのですが、デザイン的にはこちらの「鉄道線のデハ」の方がバランスが取れていて、好ましいように思います。

 デハ3は元は木造だったのですが、戦前に車庫が火事になり焼けてしまった後で、車体を鋼体化しているそうです。では、最初はどういう形態だったのかというと、ポール集電で、下の木造客車サハ3のように窓上の幕板に三日月型の飾りがつけられていたようです。焼失しなかったデハ1とデハ2は、1960年ごろに鋼体化されて別の番号になるまで、そういうデザインの木造車体でした。下左は1958年に花巻の車庫内で撮影されたデハ1ですが、どうやらこれが鋼体化工事を開始している様子のようです。

  左=デハ1 1958年 撮影=細井扇郎  中=サハ3 1960年 撮影=柳一世  右=サハ(番号不明)の窓 1971年 撮影=かねた一郎 

 このタイプの幕板は大正期の電車・客車にときおり見られるものですが、世界的なアールデコの流行に影響されているのでしょう。格調の高さを感じさせるこうした曲線的なデザインの電車や客車が、1つも保存されなかったのは非常に残念なことだと思います

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