車両のおもしろさ
木曽森林鉄道の制動車
日本の軽便鉄道には客貨車に車掌室がついているハフ、ニフ、ワフなどはあったのですが、旧国鉄の形式「ヨ」のような車掌車は、一般の路線では保有していたところがありません。
しかし、専用鉄道を含めたナローの鉄道全体では「車掌車」と言えるものが一つだけありました。木曽の森林鉄道で使われた「制動車」で、鉄道ファンからはしばしば「木曽のカブース」と呼ばれています。ちなみに"caboose"というのは車掌車の米国での名なのですが、なぜ米国でそう呼ばれるようになったのか語源については諸説あり定かでありません。
この車両は、横幅よりも車体の長さが短いという、たいへんユニークな形状をしています。車内には2人が座れる椅子と非常用のブレーキ管コック、備品の発煙筒やライトしかなく、本来は材木を運ぶためにつくられた台車上に前後1mほど、巾2m弱の木造の車体が載っています。縦に長い大きなガラスが使われているところも珍しい。赤い色に塗られており、ちっちゃくてかわいらしい車両が長い運材列車の最後尾に連結されて走っている姿は、とても印象的で人気がありました。
車体は上松にある営林署の工場でつくられたのですが、これを設計した人はなかなか素晴らしいデザインセンスの持ち主だったのではないかと思えるくらいです。
8両つくられたこの制動車は、それぞれ微妙な違いがあります。最も顕著なのは車体の位置で、左の画像をみると、車体が台車中央に乗っているもの(左のタイプ)と、片側に寄っているもの(右のタイプ)があることが分かります。その他は、手すりとか軸箱のバネとか、「見る人が見れば分かる」類いの細かい差。
下回りは運材台車なので、ハンドブレーキが目立つ位置に付いているところも素敵です。